健康と疾病における脂質
研究
肥満の高脂血症 OLETF ラットにおける脂質代謝に対する 9cis, 11trans, 13cis 共役リノレン酸の豊富なザクロ種子油の食餌効果
要旨
共役二重結合を持つ多重不飽和脂肪酸の位置および幾何異性体の一般的用語である共役脂肪酸は、生物に対して有益な効果を持つ可能性があるという理由で、かなりの注目を浴びてきた。本研究では、肥満した高脂血症のオオツカ・ロング
-
エバンズ・トクシマ脂肪(
OLETF
)ラットの脂質代謝に対するプニカ酸(
9cis, 11trans, 13cis-
共役リノレン酸;
9c, 11t, 13c-CLNA
)を豊富に含むザクロ種子油の食餌効果について調べた。
2
週間食餌を与えた後、
OLETF
ラットは先祖である
LETO
ラットとは対照的に肥満で高脂血症であることが明らかとなった。
OLETF
ラットに、
9
%のベニバナ油と
1
%のザクロ種子油(
9c, 11t, 13c-CLNA
)を補足した食餌を与えたところ、腹腔の白色脂肪組織の重量および血清脂質のレベルは
10
%のベニバナ油を補足した食餌(対照食餌)を与えた場合と同等であった。しかし、蓄積された肝臓のトリアシルグリセロールは
9c, 11t, 13c-CLNA
を含む食餌を与えた
OLETF
ラットで著しく低下した。脂肪酸合成および脂肪酸の?酸化に関係する肝臓内酵素の活性は、
9c, 11t, 13c-CLNA
を含む食餌によって変化しなかった。血清中トリアシルグリセロールにおける主要な脂肪酸の貯蔵形態であるモノ不飽和脂肪酸(
MUFA
)のレベルは、痩身の
LETO
ラットより肥満した高脂血症の
OLETF
ラットで著しく高かった。加えて、
9c, 11t, 13c-CLNA
を食餌に加えた場合、
OLETF
ラットにおける
MUFA
レベルは著しく低下した。本研究は、
9c, 11t, 13c-CLNA
が
in vivo
における?
-9
不飽和化を抑制することを示す初めての研究であり、
9c, 11t, 13c-CLNA
による肝臓でのトリアシルグリセロール蓄積の軽減が、少なくとも部分的には、
OLETF
ラットにおける?
-9
不飽和化の抑制に起因する可能性があると考えられる。
背景
共役脂肪酸(
CFA
)とは、共役二重結合を持つ多重不飽和脂肪酸の位置および幾何異性体の一般的用語である。リノール酸の
CFA
形態である共役リノール酸(
CLA
)は、抗アテローム動脈硬化症、抗肥満、抗腫瘍、抗高血圧というような有益な生理的効果を持つことが報告されている[
1
?
9
]。ある種の植物種子には別のタイプの
CFA
が含まれている。ザクロ種子油にはプニカ酸(
9cis, 11trans, 13cis-
共役リノレン酸;
9c, 11t, 13c-CLNA
)が約
72
%含まれている[
10
]。ニガウリおよびキリの種子油には?
-
エレオステアリン酸(
9cis, 11trans, 13trans-CLNA
)がそれぞれ
60
%および
70
%含まれている[
10
、
11
]。またキササゲの種子油はカタルピン酸(
9trans, 11trans, 13cis-CLNA
)を約
31
%、そして鉢植え栽培のマリーゴールドはカレンディン酸(
8trans, 10trans, 12cis-CLNA
)を約
33
%含んでいる。?
-
リノール酸または植物種子油のアルカリ異性化によって調製された
CLNA
異性体の混合物が、体脂肪の軽減および抗腫瘍活性を含むいくつかの生理機能を有することを示す研究がある[
12
、
13
]。加えて、精製した?エレオステアリン酸(
9c,11t,13t-CLNA
)および?
-
エレオステアリン酸を豊富に含むニガウリ種子油も
in vitro
および
in vivo
で抗発癌性を示す[
10
、
11
、
14
、
15
]。しかし、プニカ酸(
9c, 11t, 13t-CLNA
)の生理機能を明らかにした研究はほとんどない
[10
、
16]
。以前、著者らはヒト肝臓由来の
HepG2
細胞における純プニカ酸の低血脂化効果について報告した
[17]
。
本研究では、オオツカ・ロング
-
エバンズ・トクシマ脂肪(
OLETF
)ラットの脂質代謝に対する、
9c, 11t, 13c-CLNA
を豊富に含むザクロ種子油の影響について調べた。
OLETF
ラットは、ヒトの肥満に伴う多くの特徴と共通する、複数の代謝およびホルモンの障害を伴う症候群が発生する
[18
?
21]
。
OLETF
ラットは、コレシストキニンの受容体を欠いているために、食欲異常亢進を示し、肥満して、高脂血症、糖尿病、および高血圧となる。
9c, 11t, 13c-CLNA
の生理的機能を明らかにするために、このような肥満した高脂血症ラットの脂質代謝に関係する肝臓の酵素活性および血漿中の脂肪酸組成について調べた。
結果と考察
先祖にあたるロング
-
エバンズ・トクシマ・オオツカ(
LETO
)ラットに比べ
OLETF
ラットは、
2
週間の食餌期間中における食物摂取量が多かったために、体重が増加した(表
1
)。
OLETF
ラットでは、グループ間における食物摂取量に違いはなかった。また
LETO
ラットと
OLETF
ラットの相対的肝臓重量にもグループ間で有意な差はなかった。しかし食餌効果は、他の
2
グループに比べ
9c, 11t, 13c-CLNA
グループで高かった。先に
Chin
らは、体重増加が促進されまた食餌効果が高まったことから
CLA
はラットにおける成長因子であると報告した[
22
]。したがって、著者らは
9c, 11t, 13c-CLNA
が何らかの成長促進機能を有する可能性があると考えている。
食餌に含まれる
9c, 11t, 13t-CLNA
の、腹腔における白色脂肪組織(
WAT
)の蓄積に対する影響について調べた(図
1
)。
2
週間の食餌期間後、
OLETF
ラットは腹腔が著しく肥満した。
LETO
ラットに比べ、対照食餌グループの
OLETF
ラットの腎周、精巣上体、および大網の
WAT
重量はそれぞれ、
2.6
倍、
1.5
倍、
2.1
倍となった。
OLETF
ラットにおける腹腔
WAT
の蓄積に対して、
9c,11t,13t-CLNA
は著しい影響を与えなかった。しかし、
5
%のザクロ種子油を補足した食餌を
2
週間与えたところ、
OLETF
ラットに対照の食餌を与えた場合に比べ、大網の
WAT
重量が著しく(
27
%)減少した(未発表データ)。これらの結果は、
1
%のザクロ種子油を含む食餌を
2
週間与えるだけで、
9c,11t,13c-CLNA
の抗肥満効果を明らかにするのに十分であることを示唆した。
2
週間の食餌期間後、
OLETF
は高脂血症であることが分かった。対照の食餌が与えられた
OLETF
ラットの血清におけるトリアシルグリセロ?ル、リン脂質、およびコレステロールのレベルは対照の食餌が与えられた
LETO
ラットに比べて著しく高かった(図
2
)。しかし、
9c, 11t, 13c-CLNA
の食餌は
OLETF
ラットの血清脂質レベルに影響を与えなかった。本研究は
9c, 11t, 13c -CLNA
の豊富なザクロ種子油を
1
%含む食餌が
OLETF
ラットにおける高脂血症を軽減できないことを示すものであるが、著者らが以前に行った研究によれば、純粋な
9c, 11t, 13c -CLNA
はヒトの肝臓に由来する
HepG2
細胞からのアポリポタンパク質である
B100
の分泌を抑制した[
17
]。
OLETF
ラットにおける高脂血症の発生に対する純粋な
9c, 11t, 13c -CLNA
の影響を明らかにするための研究をさらに行う必要がある。
次に、食餌に含まれる
9c, 11t, 13c -CLNA
の肝臓における脂質の分布に対する影響を調べた。
OLETF
ラットでは対照の食餌を与えたグループと
9c, 11t, 13c -CLNA
グループ間で、肝臓の相対的重量に有意な差はなかった。以前に報告された研究によると、マウスに
CLA
を含む食餌を与えたところ、肝腫と脂肪肝が発生し[
23
?
25
]、またラットに
CLNA
混合物を含む食餌を与えたところ、肝臓に脂質の蓄積が誘導されることが示唆された[
13
]。本研究では、
OLETF
ラットにおけるトリアシルグリセロール濃度が
LETO
ラットに比べて著しく高く、また
OLETF
ラットにおけるトリアシルグリセロールの肝臓への蓄積が
9c,11t,13c-CLNA
を含む食餌によって顕著に軽減された(図
3
)。
LETO
ラットでも
OLETF
ラットでも、肝臓のリン脂質およびコレステロールレベルにグループ間で有意な差は見られなかった。これらの結果は、
9c, 11t, 13c -CLNA
が肝臓におけるトリアシルグリセロール蓄積の抑止効果を有することを示唆するものである。
肝臓の脂質代謝制御についてさらに調べるために、脂肪酸合成および脂肪酸?酸化に関係する酵素活性に対する
9c, 11t, 13c -CLNA
の食餌効果について解析した。図
4A
に示すように、
NADPH
産生の鍵となる酵素であるグルコース
-6-
リン酸脱水素酵素(
G6PDH
)とリンゴ酸酵素(
ME
)、および脂肪酸合成の鍵となる酵素である脂肪酸生成酵素(
FAS
)は、
LETO
ラットに比べ、対照の食餌が与えられた
OLETF
ラットで顕著に増加した。
OLETF
ラットでは、
9c, 11t, 13c -CLNA
の食餌はこれらの酵素活性に対する有意な効果を示さなかった。脂肪酸の?酸化およびペルオキシソームでの?酸化の鍵となる酵素であるカルニチンパルミチン転移酵素(
CPT
)の活性は、
OLETF
ラットと
LETO
ラットで差異がなく、
OLETF
ラットにおけるこれらの活性に
9c,11t,13c-CLNA
は影響を与えなかった(図
4B
)。先に
Koba
らは、アルカリ異性化によって調整された
CLNA
混合物は、リノール酸、?
-
リノレン酸、および
CLA
に比べ、肝臓のミトコンドリアおよびペルオキシソームの?酸化を高めたと報告した[
13
]。したがって著者らは、脂肪酸の?酸化に対する
9c, 11t, 13c -CLNA
の効果は、他の
CLNA
異性体の効果より弱いと考えている。加えて、
9c, 11t, 13c -CLNA
による肝臓のトリアシルグリセロール蓄積の軽減は、脂肪酸の合成および脂肪酸の?酸化に関係する酵素活性の制御に起因していない可能性がある。
脂質代謝に対する
9c, 11t, 13c -CLNA
の食餌効果に光を当てるために、血清中のトリアシルグリセロールの脂肪酸組成を解析した。表
2
に示すように、
LETO
ラットに比べて対照の食餌が与えられた
OLETF
ラットでは、飽和脂肪酸(
SFA
)レベルは低く、単不飽和脂肪酸(
MUFA
)レベルは高かった。
9c, 11t, 13c -CLNA
を含む食餌が与えられることにより、
OLETF
ラットの血しょうトリアシルグリセロールにおける
MUFA
レベルは著しく低下した。
MUFAs
は蓄積脂肪を形成する主要な脂肪酸であることが分かっている[
26
]。
SFA
対
MUFA
比率の変化は、心臓や血管の疾患、肥満、そして糖尿病などといった様々な疾病状態に関係している[
27
?
29
]。従って、
SFA
対
MUFA
比率は正常状態および疾病状態で生理的に重要である。細胞内での
SFA
から
MUFA
の合成に関係する鍵となる酵素は、脂肪酸基質の?
-9
位置にシス二重結合を挿入する、膜結合性のステアロイル
-CoA
デサチュラーゼ(
SCD
)である。これまでに行われた研究によると、抗肥満効果を有する
CLA
の活性異性体である
10t,12c-CLA
が
in vitro
と
in vivo
で、?
-9
不飽和化および
SCD
活性を抑制することが示唆された[
30
―
32
]。本研究では、オレイン酸(
18
:
1
)対ステアリン酸(
18
:
0
)の比率は、痩身の
LETO
ラットに比べ、肥満で高脂血症の
OLETF
ラットで高く、また
OLETF
ラットでは
9c,11t,13c-CLNA
を含む食餌が与えられたグループで著しく低下した。分かっている限りでは、本研究は
9c,11t,13c-CLNA
が
in vivo
での
?
-9
不飽和化も抑制することを示す初めての研究である。著者らは、
OLETF
ラットでは、
9c, 11t, 13c-CLNA
を含む食餌による肝臓でのトリアシルグリセロール蓄積の軽減が、少なくとも部分的には、?
-9
不飽和化の抑制に起因する可能性があると考えている。
結論
肥満で高脂血症の
OLETF
ラットでは、
9c, 11t, 13c-CLNA
の豊富なザクロ種子油を含む食餌は肝臓のトリアシルグリセロール蓄積を軽減する。この効果のメカニズムは、脂肪酸の合成および脂肪酸の?酸化に関係する酵素活性の制御に起因する可能性がある。しかし、食餌に含まれる
9c, 11t, 13c-CLNA
による?
-9
不飽和化の抑制が、少なくとも部分的に、この効果に関係していると考えられる。
材料と方法
動物および食餌
すべての実験は、佐賀大学における実験動物保護倫理規定によって定められた指針にしたがって実施された。
5
週齢のオスの
OLETF
ラットおよび、
OLETR
の先祖である
LETO
ラットが、トクシマ研究所(オオツカ製薬、徳島県)から購入された。ラットは
1
匹ずつ金属製のケージに入れて室温制御下(
24
℃)で
12
時間の明暗サイクルで飼育された。
1
週間の順化後、
OLETF
ラットは
2
つのグループに分けられ(
6
匹ずつ)、一方のグループのラットには
10
%のベニバナ油が補足された半合成の食餌が(対照グループ)、もう一方にはベニバナ油を
9
%と
9cis-11trans-13cis-CLNA
の豊富なザクロ種子油を
1
%補足された半合成の食餌が与えられた(
9c, 11t, 13c-CLNA
グループ)、
LETO
ラットには対照グループの
OLETF
ラットと同じ食餌が与えられた。
9c, 11t, 13c-CLNA
の豊富なザクロ種子油(
69.0
%)はカネカ食品株式会社(兵庫県)から購入された。半合成の食餌は
AIN-76
の勧告にしたがって調製され[
33
]、重量%でカゼインを
20
、脂肪を
10
、コーンスターチを
15
、ビタミン混合物(
AIN-76
TM
)を1、無機物混合物(
AIN-76
TM
)を
3.5
、
DL-
メチオニンを
0.3
、酒石酸水素コリン
choline bitartrate
を
0.2
、セルロースを
5
、そしてショ糖を
45
含有する。ラットは異なる食餌を
2
週間与えられ、その後、ジエチルエーテル麻酔下で大動脈除血によって殺された。肝臓および腹腔(および大網)の
WATs
が解析のために切り取られた。
脂質の解析
血液を遠心分離して血清が採取された。血清中のトリアシルグリセロール、コレステロールおよびリン脂質が、和光純薬(東京都)の酵素活性キットを用いて測定された。肝臓の脂質が抽出され、
Folch
らの方法にしたがって精製された[
34
]。トリアシルグリセロール、コレステロール、およびリン脂質の濃度は、
Fletcher
[
35
]、
Seprry
と
Webb
[
36
]および
Bartlett
[
37
]の方法にしたがって測定された。血しょうにおける脂肪酸組成の測定は、先に報告した方法で実施された[
38
、
39
]。
肝臓の非細胞分画
肝臓切片を、
10mL
のトリス
Tris-HCL
緩衝液(
pH 7.4
)に
1mM
の
EDTA
を含む
0.25M
のショ糖溶液
6
体積中でホモゲナイズした。先の報告と同様に[
40
]、ミトコンドリア、ミクロソームおよびサイトゾルの各分画が得られた。ウシ血清アルブミンが標準として用いられ、
Lowry
らの方法[
41
]にしたがってタンパク質濃度が測定された。
酵素活性検定
肝臓のサイトゾル分画中の
ME
(
EC 1.1.1.40
)
[42]
、
G6PDH
(
EC 1.1.1.49
)
[43]
、
FAS
(
EC 2.3.1.85
)[
44
]、ミトコンドリアの
CTP
(
EC 2.3.1.23
)
[45]
、およびペルオキシソームの?酸化
[46]
の酵素活性が記述された通りに測定された。
統計解析
すべての値は平均値±標準誤差で表されている。データは一元配置
ANOVA
で解析され、すべての差異は
Duncan
の新多重範囲試験
new multiple-range test
[
47
]によって検定された。差異は
P<0.05
で有意とした。
略語表
CFA
、共役脂肪酸;
CLA
、共役リノール酸;
CLNA
、共役リノレン酸;
OLETF
ラット、オオツカ・ロング
-
エバンズ・トクシマ脂肪ラット;
LETO
ラット、ロング
-
エバンズ・トクシマ・オオツカラット;
WAT
、白色脂肪組織;
G6PDH
、グルコース
-6-
リン酸脱水素酵素;
ME
、リンゴ酸酵素;
FAS
、脂肪酸合成酵素;
CPT
、カルニチンパルミトイル転移酵素
carnitine palmitoyltransferase
;
SFA
、飽和脂肪酸;
MUFA
、単不飽和脂肪酸;
SCD
、ステアロイル
-CoA
デサチュレーゼ
stearoyl-CoA desaturase
謝辞
技術補助をお願いしたイケガミ・サトコ、ウシジマ・マサノリ両氏に感謝する。本研究は文部科学省の研究費支援を受けて行われた。
表
1
:体重、相対的肝臓重量、食餌摂取量、および食餌効果に対する
9c, 11t, 13c-CLNA
の影響
a, b
異なる上付き文字は
P<0.05
で有意差があることを示す。
表
2
:血清中のトリアシルグリセロールにおける脂肪酸組成に対する
9c, 11t, 13c-CLNA
の影響
a, b, c
異なる上付き文字は
P<0.05
で有意差があることを示す。
図
1
LETO
ラットと
OLETF
ラットの腹腔白色脂肪組織重量に対する
9c, 11t, 13c-CLNA
の影響。ラットには対照食餌または
9c, 11t, 13c-CLNA
を含む食餌が
2
週間与えられた。値はラット
6
匹での平均値±
SE
で表されている。
a,b
異なる文字は
P<0.05
で有意差があることを示す。
Omen:
大網
, Peri:
腎周
, Epi:
精巣上体
白色脂肪組織(
g
/体重
100g
)
| ||||||||||||||||||||