| 「百寿者(ひゃくじゅしゃ)になろう」抜粋集 |
| ■ (75) やっぱり減塩が大事 |
| 高レベル食塩摂取は、高血圧、動脈硬化、心筋梗塞などの循環器疾患や脳卒中 胃がんなどと密接な関係があるといわれています。食塩による昇圧(降圧)には、 レニン-アンギオテンシン-アルドステロン(R-A-A)系が関与しています。 食塩制限による循環血液量の減少と低塩素イオン(またはナトリウム)による レニン分泌亢進にはじまるR-A-A系活性化(アンギオテンシンUが細胞脈を 収縮して血管抵抗を高め、アルドステロンがナトリウムイオンの再吸収を亢進する) による血管抵抗の増加(昇圧)とのバランスに減塩後の血圧が想定されます。 このR-A-A系作動に人種・民族差、個人差があり、食塩感受性の差をもたらします。 減塩の降圧効果は、高血圧患者のほうがより明白です。正常血圧者(高血圧患者でも) には降圧効果がみられない場合があります。そのため、減塩は意味がない、という 主張が今でもみられますが、正しくありません。減塩はすべての人に意味があり、 特に中高年者では腎臓の負担を軽減し、減塩効果がみられない高血圧患者でも降圧 薬の効き目が増強することが期待できます(「臨床スポーツ医学」19巻臨時増刊号、 松浦秀夫著)。 他方、食塩はがん細胞を増やす促進作用があると考えられています。メカニズム はまだわかっていませんが、高い食塩摂取量は胃がんとも関係します。加えて、 胃がん、高血圧以外の疾患にも影響する結果、食塩摂取量の少ない地域ほど平均 寿命が長いという結果が得られ、特に沖縄の長寿は食塩摂取量の少ない食生活に よって支えられていることが確認されます (『健康の科学シリーズ9 沖縄の長寿』家森幸男著、学会センター関西)。 ■ 高血圧の遺伝子と高食塩 人は、一日の食塩摂取量が1g以下でも大丈夫なように設定されています (「Curr.Opin.Cardiol.」17巻4号、DeWardener、H.Eら著)。類人猿が、食塩が ほとんどない熱帯雨林で植物性食品を摂取しながら進化してきた名残りです。 <ちなみに、突然変異で類人猿のビタミンC合成酵素・グロノラクトン脱水素 酵素にSNP(一塩基多型)が生じたにもかかわらずヒトにまで進化できたのは、 同じく果実が豊富な熱帯雨林に存在し、ビタミンCを十分に摂取できたからです>。 現に、アマゾンに住むヤノマモインディアンは、一日に0.1g以下しか食塩を摂らず、 1g以下のいわゆる未開民族も珍しくありません。通常、血圧は加齢とともに上昇 します(『健康の科学シリーズ一 食と健康T』)。しかし、一日2.9〜4.1gまでの 低食塩摂取集団では年齢に伴って上昇しません。当然、ヤノマモインディアンにも 加齢の影響はみられません。さらに、高血圧有病率が0%の集団で最も高い食塩摂取量 は1日2.9gであることが示されています(『第六次改定日本人の栄養所要量食事摂取基準』 健康・栄養情報研究会編、第一出版)。「百寿は遺伝子だけでは決まらない」の章で、 アンギオテンシノーゲン(レニン基質)の高血圧感受性SNPが白人に少なく、日本人に多い ことを紹介しました。このSNP(二三五番目のアミノ酸がメチオニンからトレオニンに変異 したもので、類人猿にも多い)は倹約遺伝子の一種で、ナトリウムと水分の貯蓄に有利に 働きます。同じ章で紹介したように、両者の食習慣の違い(塩分摂取量が、日本人の祖先 は少なく、白人の祖先は多かった)にこの遺伝子の差のルーツを辿れます (「栄養学雑誌」59巻5号、香川靖雄ら著)。その他、食塩感受性と密接な関連をもつ R-A-A系関連酵素にも、日本人は倹約タイプのSNPを多く持っています。日本人は、 元来高食塩になってはならない集団なのです。 |
| 【百寿者になろう】より抜粋(著者の了解済み) 著者 杏林大学医学部教授 大野秀樹 定価1,260円(税込) |