| 「百寿者(ひゃくじゅしゃ)になろう」抜粋集 |
| ■ (16) 麺食いで長生きしようE |
| 麺食いで長生きしようE ■鬼平と蕎麦 きしめんと蕎麦との違いから、個の喪失、どうしようもない田舎者という 独特の名古屋人論を展開したユニークな本『蕎麦ときしめん』(清水義範著、講談社)、 あるいは赤い草を舐めると、おなか一杯食べた蕎麦ばかりでなく自分のからだも消化されて しまったという「清兵衛蕎麦」(『江戸おとし咄ー夜の客』宇野信夫著、集英社) などを紹介するまでもなく、蕎麦に関する本は数え切れないほどあります。ここでは、 池波正太郎氏の蕎麦の食べ方を紹介して終わりにしたいと思います。 <蕎麦好きは、蕎麦の食べかたが違う。映画狂の池波正太郎の供をして、試写会の帰り に一緒に蕎麦屋に入ることも珍しくないが、池波正太郎の蕎麦の食べっぷりの鮮やかさ といったらない。私(佐藤隆介氏のこと:筆者注)も人後に落ちないほうだが、とても 真似ができない。 蕎麦屋で、あるとき、池波正太郎に教えられたことを忘れない。それは、ざるそばに ついてきた薬味の葱とうずらの卵を、私がそのまま猪口へ入れようとしたときであった。 『卵なんか入れたら駄目だぞ』と、一言。 (なるほど、それが本当の蕎麦好きの、つまりは東京人(とうきょうびと)の 感覚というものか・・・・・)と、そのとき私は思った。 そもそも蕎麦とは、何よりも香りと、あのしゃきっとした歯ざわりを賞味すべき もの、ということを考えれば、『蕎麦は、もりに限る』という一徹者が少なくない 所以もわかる。・・・・・そういえば浅草・並木の「藪」には、ざるすらない。海苔が のっていては、蕎麦そのものの香りが損なわれるからだろう。・・・・辛めのつゆもいい。 あれが江戸時代の正当を継ぐつゆの味だと聞く。日本中に蕎麦の名所はあり、それぞれ に味自慢をして尽きるところがないけれども、たいていの場合、つゆに物足りなさを 覚えるのは私だけであろうか。並木の「藪」のつゆを持参して各地の蕎麦を食べ歩く ことができたら・・・・・・というのが私の夢である>(『池波正太郎・鬼兵料理帳』 佐藤隆介偏、文芸春秋) 【百寿者になろう】より抜粋(著者の了解済み) 著者 杏林大学医学部教授 大野秀樹 定価1,260円(税込) |